こんにちは。
さて唐突ですが、自作の印刷物の中で点字の形を表現したいという人は多いと思います。
小学校ではもう何年も前から、4年生の国語で点字を学習しますし、総合学習の時間に点字について学ぶというケースもあります。
また2017年4月の«障碍者差別解消法»の施工を受けて、職場研修の中で点字に触れるケースも増えているようです。
しかし、そのような場で必要な資料等の印刷物の中で点字の形を表現することは、実はけっこう面倒です。
外字や表を使って何とか工夫するというケースが多いのですが、もっと楽に点字を表現する方法があるので、ここでまとめてみました。
この方法を極めると、例えば飲食店のメニュー表に点字と普通文字を療法印刷した«ユニバーサル・メニュー表»なんて物を作ることも可能なので、最後までお読みください。
この記事の目次
事前準備
今回は以下のソフトを利用します。詳しいインストール方法や使用方法については後述します。
- 点字を表現するフォントである«墨点字フォント»
- テキストファイルを点字やかなファイルに変換するソフト«ibukiTenC»
- 仮名文字を墨点字フォント用文字に変換するスクリプト
墨点字フォントのインストール
(社)日本ライトハウスが無償で公開しているフォントです。
下記リンクからダウンロードページに進み、解説に従ってダウンロードとインストールを行ってください。
※墨点字フォントのダウンロードページ
インストールが成功すると、2つのフォントが追加されます。点字の点の位置をはっきりさせるため、点ではない部分を横線で表現する場合は«点字線付フォント»を、点字の形をリアルに表現する場合は«点字線なしフォント»を使用します。
ibukiTenCのインストール
国立大学法人岐阜大学(工学部応用情報学科池田研究室が開発した、点訳ソフトです。
下記リンクからダウンロードページに進み、解説に従ってダウンロードとインストールを行ってください。
※ibukiTenC公式サイト
【解説】点訳データと点字フォントの違い
このソフトは、通常の漢字仮名交じりテキストを自動で点訳し、«Base»等の点字エディタで読み書きできるファイルを出力します。
このような点訳データは専用の形式であり、一般的な漢字仮名交じりのテキストとは異なります。
一方、今回取り上げている墨点字フォントは«仮名文字を点字の形をしたフォントで置き換える»というコンセプトなので、両者は似ているようで全くの別物です。
ではなぜ今回ibukiTenCを利用するかというと、通常の漢字仮名交じりテキストから点訳データではなく、仮名文字だけのファイルを出力することができるからです。
この仮名文字だけのファイルと墨点字フォントを利用して、点字を表現するわけです。
実際に利用してみる
例えばWord等で«あいうえお»等と書いて、その箇所のフォントを墨点字フォントにすると、点字の形を表現することができます。
ただし点字には漢字がないため、漢字は表示されません。そこで、漢字仮名交じりのテキストファイルを作成し、それをibukiTenCで仮名文字だけのファイルに変換し、その中の文字列をWord等にコピペして墨点字フォントを当てることで、漢字を仮名に読み下した点字の形が表現できます。
しかし上記のような作業をしても、以下のような課題が残ります。
- 濁音・半濁音が出力されない
- これは点字の規則に由来します。普通の仮名文字では、例えば«が»は«か»に濁点と表記しますが、点字の場合は濁点に«か»と表記します。また濁点事態で1文字を使うので、墨点字フォント用には«濁か»と書き換える必要があります。
- 拗音・特殊音は点字的に間違えた形で出力される
- こちらも点字の規則に由来しますが、例えば«きゃ»を点字で書くときには、拗音である前置符«4の点»に«か»と各必要があり、墨点字フォント用には«拗か»と各必要があります。
- «<»・«『»等の記号が出力できない
- 点字は6個の点の組み合わせで文字を表現していますが、その組み合わせは64通りしかありません。そこで上記のような記号は2文字で表現する規則になっています。
例えば«<»は3・5、3・5のように2文字で表します。また«『»は5・6、3・6の2文字で表します。これを墨点字フォント用に書き換えると、それぞれ«--»、«外_»と表す必要があります。 - «(»・«=»等の記号が違う点字で出力されてしまう
- こちらの理由はわかりませんが、墨点字フォントをそのまま充てると間違った点字が出力されてしまいます。«(»は«=»、«=»は«ーー»(長音2つ)と表記します。
仮名文字→墨点字フォント用文字への変換
前述のような課題を手作業で置換するのは至難の業です。
そこで、そのような苦労を解消するため、ibukiTenC等で変換した仮名ファイルの仮名文字を墨点字フォント用の文字列に変換するスクリプトを作りました。
下記の«仮名テキスト»に仮名の文字列を入力し、変換ソフトを選び、変換ボタンを押してください。
下のテキストボックスに文字化けのような文字が出力されるので、それをWord等にコピペして墨点字フォントを当てると、濁点や拗音等も表現された点字文章が表現できます。
正しい点字を表現するには経験者の校正が必須
今まで長々と方法を書いてきましたが、自動変換には限界があります。以下はその一例です。
- アルファベットに関する点字の規則では、例えばWHO(ダブリューエッチオー)とスペル読みする場合とWho(フー)と単語読みする場合とで、書き方が変わります。これを機械的に変換することは不可能です。
- 点字では«分かち書き»と言って、単語間に頻繁に空白(マス開け)を入れます。現在の技術ではかなりの制度でマス開けを自動的に行えますが、やはり完全ではありません。
- 点字は漢字のない表音文字ですから、漢字仮名交じり文を仮名に読み下す必要があります。
一方漢字には«同じ漢字で異なる読み方をする場合»があり、これを機械的に判断することは不可能です(例:«高山»と書いて、人名では«たかやま»と読むが、その他では«こうざん»と読む場合もある)。
その他、楽譜・化学式・数学の式・コンピューターのプログラムソース等、点字にはさまざまな書き方があり、それぞれ異なる規則を持っています。これらを熟知して使い分けることはそれなりに至難の業です。
皆さんが自作の冊子の中でちょっとした点字の単語を表現するには、本記事で紹介したような方法で十分だと思いますが、本格的に点字を印刷物に入れる場合には、やはりしっかり校正をしてくれる人材が必要です。
もし本格的に印刷物に点字を入れようという方は、こちらの連絡フォームからご連絡ください。お手伝いさせていただきます。